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たまにはこんな「とんでも話」でもしてみようと思う。
今朝のニュースでシンドラーエレベーター社(以下「シンドラー社」)は「当社の保守点検を受けていないエレベーターで事故が起きたことはとても残念である」といった趣旨のコメントを出していた。(公式か非公式かはわからない)
見方を変えれば、「当社の保守点検を受けていないのだから、エレベーター事故は当社の責任ではない」とも受け取れる内容である。まず責任の所在を明らかにするという、外資系企業らしい行動であるが、中にはこれを聞いて腹を立てた方も多いであろう。
とはいえ、この「製造」と「保守」の責任切り分けが、これからの刑事や民事訴訟の大きな争点になっていくのは疑いない。
そもそも、なぜ港区住宅公社は、製造元のシンドラー社ではなく、エスイーシーエレベーター社に保守管理を委託していたのであろうか?
喩えるならば、トヨタの車をマツダのディーラーに点検に出したり、ソニーのVAIOをNECフィールディングで修理してもらうようなものである。
他社でも点検や修理は出来ないことはなかろうが、そのマシン固有の特性は、製造メーカーが一番ノウハウを蓄積していることは疑いない。
しかしながら、それを証明するのは難しい。
「保守」というのは一番費用対効果が推し量りにくい「製品」だからである。
例えば、貴方が新車を購入し、半年ごとに定期点検を受けて、3年後に故障もなく車検を迎えたとする。
3年間トラブル無しで過ごせたのは定期点検のおかげかもしれないし、単なる偶然かもしれない。もし定期点検がなくとも3年間トラブル無しで居られたのならば、変な話、定期点検に費やしたコストは無駄だということになる。
それを確かめるためには、ほぼ同じ使用条件で「保守点検あり」と「保守点検なし」とのトラブル発生率を調査するしかない。メーカーはこうしたデータを蓄積しているかもしれないが、ユーザー側からこうした情報を知ることはほぼ不可能である。
一方で、行政が相当高額の商品(委託サービスも含む)を購入する場合、入札か随意契約(いわゆる随契)によることになる。
入札は、行政が示した条件をクリアし、かつ最も低い価格を示した業者が契約権を獲得する仕組みである。
「条件」は入札仕様書により示されるが「保守」の仕様というのは難しい。
定量的なこと、例えば「月に1回以上点検を行うこと」「故障時には通報から2時間以内に修理対応にあたることのできる体制を確保すること」などは容易に盛り込むことができる。
定性的なことはどうであろうか。
「故障発生率は概ね1%以下であること」「稼動率は99%以上であること」ということは、盛り込むことはできても、その証明や確認は不可能である。
なぜならば確率なのだから。
10%でも1%でも故障するときは故障するのである。
「故障は年3回以内であること」と実績値で書くこともできよう。しかし、業者はそれを達成できなかったら契約違反となり、違約金や指名停止等、様々なペナルティを受けるのである。
こんな仕様書に「フダ」を入れる業者は絶対に居ない。
要するに、入札による保守契約では質を確約することはできず、ノルマ量だけ満たした「安かろう悪かろう」の保守になる可能性は十分にある。
そして、そのせいでトラブルが起きたとしても、それを実証するのは非常に困難なのである。
製造メーカーと契約するのが望ましいのならば、随契という手段もある。
随意契約が出来る条件は「地方自治法施行令第百六十七条の二」に記載があるが、
第一項の「少額随契」
第二項の「競争入札に不適」
の2つが最も良く使われる理由である。
悪名高い某省庁の、契約自体を細かく切り刻み、第一項の「少額随契」を適用するという手法は論外である。
となれば第二項を適用するしかないが、そのためには「保守管理契約は絶対にシンドラー社でなければならない合理的な理由」を示さなければならないのである。
そして前述のとおり、シンドラー社に任せるのが一番具合が良いことを証明するのは難しい。
随意契約の理由としては明らかに弱いといわざるを得ない。
何より、世は公務員叩き、行政叩きの時代である。
その性質や中身も吟味せず、「随契は悪だ!」と決め付ける方々も少なくない。
とにかく随契の「ず」の字でも出そうものなら、世間様にボコボコに叩かれるという風潮が蔓延しているのである。
もし、裁判で「事故は製造ではなく保守の責任である」ということになり、「製品を一番熟知している製造メーカーに保守委託を任せなかった行政にも事故発生の責任がある」ということにでもなったら大変である。
皆が公務員を叩いて、担当者に随契を思いとどまらせたために事故が発生してしまったことになるのだから。
要するに、公務員を叩いたためにエレベーター事故は起こってしまったということである。
というわけで、皆、公務員を叩くのをやめましょう。
** 蛇足 **
今回の話は「風が吹けば桶屋が儲かる的」なジョークである。
しかし、1人の高校生が亡くなったことはもちろん冗談では済まされない。
行政にも責任の一端がある可能性があるし、それはこれから徐々に明らかになっていくであろう。
ともあれ、市川さんの冥福を祈るのみである。









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