“誤って天引き” 2万4000人 28道府県(47NEWS)(魚拓)
後期高齢者医療制度:高額療養費の返還中止 算定ミス続出で(毎日.jp)
舛添大臣は記者会見でこれらをケアレスミスと評したらしいが、もし本気でそう思っているであればもはや救いようがない。
これらは決して単なるケアレスミスではない。
起きて当たり前。構造的な問題、欠陥である。
思い起こして欲しいが、よく似た仕組みの介護保険が導入された際、これほどまでにミスが多発したであろうか?
そして介護保険導入当時に比べ、自治体職員や委託業者の質が格段に下がったのであろうか?
もちろんそんなことはない。
介護保険と後期高齢者医療制度の大きな違いはただ1つ、準備期間だけである。
介護保険は法律制定(平成9年12月)から施行(平成12年4月)まで2年4か月の準備期間があり、しかも保険料徴収については更に6か月間の猶予があった。
対して後期高齢者医療制度は法律制定(平成18年6月)から施行(平成20年4月)まで1年10か月と介護保険より準備期間が半年短く、広域連合の立ち上げとインフラ整備という余分な仕事があり、かつ(全員ではないが)制度開始直後から保険料徴収を行なわなければならない。
その差は明白である。
なおかつ、介護保険の場合は(要介護認定等一部の部分を除き)電算システムを各自治体で個別に開発している。つまり当初から各自治体の個別事情にあわせたシステムを作成できた。
ところが、後期高齢者医療制度はご存知のとおり主要な電算システム(標準システム)を国が国保中央会に委託して一括開発している。
この手法が必ずしも悪いとは言わないが、成果物はお世辞にも各自治体の個別事情に柔軟に対応できているとは言えず(特に政令市には全く対応していない)、各広域連合や市町村は「足りない部分」を独自開発する必要がある。
しかも、標準システムの根幹仕様は公開されていない。
各広域や自治体は「足りない部分の開発」のために、ブラックボックスの標準システムをリバースエンジニアリングしたり、開発元に粘り強く交渉して仕様を聞きださなければならない。
つまりもともと、システム開発に非常に時間がかかる構造になっているのだ。
(加えて、「足りない部分の開発」を一度済ませば終わりではなく、標準システムの仕様変更がある都度、検証作業や仕様変更を強いられる。そして標準システムの仕様変更はまだ当分なくならない)
そして、平成20年4月からの無茶苦茶な軌道修正、プレスリリースから広報を済ませて施行まで2~3か月という無茶苦茶な開発が乱発されたのは、皆さんが良くご存知のとおりである。
読者の方々には釈迦に説法かもしれないが、準備期間が短いと開発現場に深刻な悪影響が出る。
どんなに発破をかけても、人が考える時間やプログラムを打ち込む時間というのは早くならない。
良くないと分かりつつも、本来必要である他の時間を徐々に削っていかざるを得なくなる。
いわゆるデスマーチである。
まず最初に無くなるのは担当者の余暇時間である。
土日祭日出勤、毎日午前2時まで労働、1週間に1度帰宅できれば良いほうといった生活が常態化する。
もちろん、こんな状態が良いはずも無い。
心身の疲労から作業効率が落ち、ケアレスミスが誘発されやすくなる。
次に無くなるのはドキュメントである。
成果物の検収文書やQA、障害発生時の処理表、そうしたものが「時間が無いから電話で済ませて、文書は後で作成しましょう」ということになる。
ユーザ向けのマニュアルなどは真っ先に犠牲になり、国開発の標準システムにおいても「モノは送られてきたけれども、マニュアルが無いぞ。どうすればいいんだ?」ということがあったのは記憶に新しい。
山場での一時的な応急処置であればまだしも、そうした状態が長期間続けばプロジェクト管理に深刻な影響が出るのは言うまでもない。
これにより、開発漏れやリリース漏れ、処理漏れといったミスが多発するようになるし、マニュアルの整備が遅れれば現場運用での入力ミスが多発する。
それでも時間が足りないとなれば、検証やテストのための時間が削られる。
もう納期に間に合わせて実装するのが最優先で、品質は二の次となる。
典型的なのは、開発方が大ポカをやらかした後のパッチプログラム(例えば誤って更新されたDBを復旧するためのSQL)で、これはもう半分以上の確率で間違っていると思ってよい。
必要なテストが簡略化あるいは全く行なわれていないのだから、ミスが激増するのは当たり前だ。
そして末期になると、セキュリティに関する運用にモラルハザードが生ずる。
操作手順の短縮のために大きなバックドアを開けたり、必要な暗号化が施されなくなったりするわけだ。
恐ろしいことだが、個人情報が暗号化もされず、平文のままでインターネットを経由してEメール送信などということも平然と行なわれるようになる。
この段階になればもはや単なる事務処理ミスでは済まされない。
リスクが顕在化すれば、それは国家や地方自治体全体の大きな信用失墜となる。
自分は先日このブログ上で、読者の一定量を占めるであろうIT企業社員向けにあるアンケートを行なった。
この結果やコメントは、こうした後期高齢者医療制度のシステム開発現場の問題点を率直に反映しているといえるだろう。
【アンケート】国(から委託を受けた社団法人)が後期高齢者医療制度の後継制度の「標準システム」開発業者を募集しており、貴方の会社に参加資格があり、貴方がその決定権を持っているとします。入札しますか?
上記アンケートのコメント
大臣はなにかとこの制度についてバスに喩えているが、
現在の後期高齢者医療制度は、準備不足のため整備不良でしかも無茶なルート変更のため法定速度をはるかに超えたスピードで走ることを強いられるバスである。
そしてそんなバスが1800台以上もいれば、事故が起きて当たり前、むしろ起きないのが幸運だったと思わなければならない。
それを大臣は「運転手が下手クソなんだ」といって、全く問題点を認識しようとしないのである。
制度の良し悪し、つまり乗り心地や快適性云々以前に、こんな危険なバスに乗りたいと思う高齢者がいるはずもない。
自分は過去の記事で、確定賦課や高額療養費に関するミスの多発を予言したが、残念ながらそれは現実のものとなった。
そして悲しいかな、1月から施行される新たな負担見直しについても、ミスとは無縁ではいられないだろう。
自分の激しい思い込みだが「高額介護合算療養費」は一度も支給されないまま制度が終了すると思えてならない。
この予想は是非とも外れて欲しいと祈っているが、そのためにはまず制度ではなく、大臣の頭の中を改革する必要があるだろう。
【追記】
まあ十分予想できていたことだが、世間一般の受け止め方はこのような感じである。↓
後期高齢者医療制度 最大625万人の天引き開始(ハズレ社会人)
またもやミスかよ!厚生労働省1万8000人から医療保険料誤徴収(充電式ぶろぐ)
つくづく、モチベーションを保つのが困難な業務だ。
COMMENTS
とある村の担当職員
#-
2008/10/16 | URL | EDIT
あれからもちょくちょく拝見させていただきましたが…なるほど、現場を一番よく知っているとほざいた大臣さんはさすがです(笑)
前回でのコメントでも記したように、馬鹿らしい安直な考えで早急な見直しを断行し、さらに新たな誤りが増えるの当然でしょう。
さらに、やれ広報だ、やれ説明会だと強要された各広域連合や各自治体の担当者はどのよううな気持ちでしょうか。
ちなみに当村での担当は私一人であり、国が要求した見直し後の説明会など行う予定はありません。
広報にしても、軽減の更生通知にしても、今後を考慮し2年後には本来の保険料となることを文面に入れました。(またどうなるか分かりませんが…)
特徴から口座への切替などさらに論外、広報の片隅に一度掲載しただけで今後二度と掲載することは無いでしょう。
議員であり続けたい為、政権を確保したいが為と、貪欲な政治家達の手で弄ばれ、国民の為の制度ではずが政治家の為の道具と化した状態で、国民を納得させることは難しいでしょう。
大臣、今回の事件は捜査打ち切りですか?
大臣の席に居座り続けるため、今の難解な捜査をあきらめて、新たな事件を解決させようということですね。
でも、現場では必死に捜査をしている広域連合と市町村の職員がいますがどうしましょう…新たな事件に手を出す前に、今回の事件現場に出向きませんか?
しん
#-
2008/10/17 | URL | EDIT
まったくもって、走る凶器、いや、核爆弾ですな。
そして、爆発したときに大臣は、いやぁ、ちょっとしたミスですwとのたまうのでしょう。
いったい何処へ向けて発射したミサイルなのか、とても知りたい。
うちのベンダーと何度か話したのですが、ベンダーにとっても国は「どうにもならない存在」であり、毎回毎回制度改正のたびに泣きを見てるのはベンダーも同じのようです。
ただ、ベンダーの担当者がそう思うだけであり、会社としてはおいしい事業なんでしょうね。
無謀と知りつつも入札に応じて、当然のように落札する。
リスク分を大きくとっても落札できるため、あとは、職員を馬車馬のように働かせれば、利益は出る。
何か問題が起きても、ベンダーが攻められるのではなく、市町村だと。。。
ベンダー担当者としても、優秀なIT技術者が集まって、完璧なシステムを作成し、それを各市町村へ配布することが、一番BESTだといっております。
同じ制度を行うのに、各市町村によってベンダーが異なり、システムも異なる。
それこそが、システム開発費の高くなる所以だと。
同じシステム開発費をかけても、それを全市町村に配布すれば、1市町村あたりの負担額は少なくて済む。
ましてや、不具合が出るとすれば、全市町村同じとなり、対処も1通りでOKなのである。
各市町村別々のシステムを使っているからこそ、きちんといっている市町村とそうでない市町村とが存在し、さらには、各市町村職員は、自分のところ独特のシステムだという危機感のため、厳重なチェックが必要となる。(まぁ、統一システムでもそれなりに危機感があるのだけれども・・・。)
国がどっかの○○中○会とかに作らせるのではなく、各ベンダーのスペシャリストたちが集まって作るシステムにしていただきたい。
まぁ、制度設計についても、同じことが言えます。
国が勝手に決めて市町村に下ろすのではなく、各市町村のスペシャリストたちが終結して、制度設計を議論したほうがどれほど良い制度となるだろうか。
たしかに、官僚様は頭が良いのかもしれない。ただ、現場で作業している人たちの意見を取り入れた制度にしていただかないと、本当に良い制度とはならないかと思います。
理論上の良い制度と、実際の良い制度とは、また違うものだと思います。
また、同じ制度であっても、その広報する期間や本人への伝え方、さらには理解度によっても、受け入れられたり、そうでなかったりするものでしょう。
今回、変に!?あたかも負担が減るような広報をしてみたり、高齢者のためになるのだという広報をしてみたり、しかし、ふたを開けてみると一概にそうではなかったりということがたくさんありました。
本来、「今の制度では成り立たない状況なので、高齢者の方も一定の負担をしてください。」という広報が必要だったと思います。それを変に包み隠したりするからこうもねじれたのです。
そして、それを煽るかのようなマスメディア。
状況はどんどん悪くなるばかり。
本当に良いものをつくるためには、机上論だけではなく、何のために、そして、誰のためにやるのか、そして、それをどのように実現していくかという時間が必要なのです。
机上には10年も費やしたのに、実現へ向けて動く時間が1年半というのは、どう考えてもうまくいくはずがありません。
そのことを、国(とくに大臣)にはわかっていただきたいと切に願います。
田舎の公務員
#-
2008/10/17 | URL | EDIT
いち保険料担当
#-
2008/10/17 | URL | EDIT
私は税務係で、保険料担当で振り回され、(その前は、保険担当で)
ずっとこの制度と、考えた厚労省には強い憤りの中で仕事をしてきました。
精神の安定を保ってくるのは大変でしたね。
ところで、SEさんももうご存知でしょうが、
来年から住民税も天引きを始めるんですよ。
私の係はこちらもなんです。
しかも、私の経験からも後期高齢者医療よりも、
タイトなスケジュール、複雑な算定を用いるようで、
そのうえ、大本営の総務省からは具体的な通知はほとんど無し。
後期、国保、住民税と来年の当初賦課の困難さは想像すらつきません。
どうなることやら・・・。
霞ヶ関の連中、いい加減にせいよ!
田舎の公務員
#-
2008/10/18 | URL | EDIT
前線
#EBUSheBA
2008/10/19 | URL | EDIT
うちは夏から何回か窓口払いがありますと説明してます。
しん
#-
2008/10/20 | URL | EDIT
そうなります。
早くても10月からの特徴であり、市町村の納期にもよりますが、例えば、普徴が7~2月の8期の場合、7~9月の3回は普徴で、10・12・2月が特徴となります。
ちなみに、6月の特別軽減の関係で8月に特徴中止データを作成したかと思いますが、その中身を御覧いただければ分かるとおり、10月0円、それ以降も0円としてデータ送信されております。
さらには、広域連合へ送信している保険料情報についても、10~8月まで0円として特徴保険料期割情報が作成されていると思います。
のぶ
#-
2008/10/21 | URL | EDIT
チキンレースっていやだなあ。
目前には壁か崖。 止まるしか助からないのに止まれない・・・
せめてキャノンボールならゴールもあるのに。
田舎の公務員
#-
2008/10/21 | URL | EDIT
アルテ
#4d3Zo1SA
2009/02/04 | URL | EDIT
貴ブログを読ませていただきましたが、後期高齢者医療制度を始め、各種行政課題に対する鋭い指摘は非常に共感できるものがあります。
当方の運営するサイトは行政課題に係る内容を扱っているわけではなく、公務員を目指す方を応援する勉強法紹介サイトでありますが、公務員を目指す人間にとっても非常に参考になる情報を提供されている貴サイトと、是非とも相互リンクさせて頂きたいと思い、ご連絡致しました。
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