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 診療報酬請求制度のIT化といって、まず真っ先に連想されるのはお隣の国、韓国である。 

 日本のレセプト電子化の状況は前回述べたが、病院と診療所と薬局でならすと約25%になる。ところが、韓国の電子化率は96%である。
 日本はレセプトの点検や審査を紙ベースの目視で行い、審査支払機関だけでは不十分であるから保険者からも再審査が行われることも述べた。ところが韓国では原則電算上のロジカルチェックしか行われず、目視で内容を精査するのは非常に例外的なケースである。審査支払機関でのチェック後に保険者が再審査を申し出することはない。

 当然人件費も大きく異なる。レセプトが同じ枚数だとすると、韓国における審査支払機関の職員数は、日本のわずか1/4である。審査委員の数は1/8である。なおかつ日本では保険者サイドでも人件費をかけて点検や管理を行っている。この点も考慮すれば、差は歴然である。

 もちろん電子化の効果はこれだけではない。
 全国民5年分、100TBとも言われるレセプトのデータウェアハウスを活用できる強みがある。
 
 実際、韓国に出来て、日本で出来ないことを列挙してみよう。

 ○疾病の流行状況の把握。
 ○患者単位での医薬品の併用禁忌チェック。
 ○不適正な医薬品や血液製剤発生時における、投与患者の検索、追跡調査、補償。
 ○レセプトデータの医学研究への活用。
 ○手術の成功率等、様々な側面からの医療の質評価。
 ○正確な特定傷病患者数の把握。


 この業界の人間であれば、一番最後の項目を見て「おや?」と思われたかもしれない。これについては後で詳述することにする。 

 さて、日本と韓国はどうしてこうも差がついてしまったのか?

 理由の1つとしてコード化がある。

 韓国は1991年にようやく国民皆保険が実現した。決して日本以上に歴史が古いわけではない。
 だが、紙ベースの時代から電子化をにらみ、徹底したコード化の対策に取り組んできたのである。

 日本で電子レセを推進するに当たり、大きな問題となっているのが、傷病名や各種点数表項目のコード化である。
 日本でも韓国でも、特定の診療行為を評価する際には、ベースとなる「基本点数」とボーナスである「加算部分」を組み合わせる方式である。
 例えば、「診療時間外に受診した乳幼児の再診料」は「再診料」というベース部分に「乳幼児」であることの加算と「時間外」であることの加算が考慮される。
 これは日本でも韓国でも同じである。

 日本の点数表は、この基本点数と各種加算にそれぞれコードが振られている。つまりコードから求めた値を演算しないと「診療時間外に受診した乳幼児の再診料」を求めることが出来ない。
 ところが、韓国の点数表では「診療時間外に受診した乳幼児の再診料」というコードが存在する。演算は必要ない。
 電算処理を行ううえで、どちらが有利かは言うまでもないだろう。

 また日本の医療機関ではいわゆる「レセコン」は導入しているが、電子レセの普及は進まないことは以前に述べた。
 要するに、医療機関の立場からすれば、電子レセに切り替えるメリットが余り無いのである。(特に診療所)
  
 その点、韓国は徹底的な利益誘導を行った。

 まず、電子の場合は医療機関に診療報酬を早期に支払い、逆に紙請求の場合は支払を遅らせたのである。
 これは効果的だ。日本でも電子も場合はボーナスが付くが、反面患者負担額にも反映するという悪影響がある。
 当時の韓国での深刻な不況も追い風となった。
 加えて、電子レセに切り替えると、最高6か月間、レセプト審査が免除されるという思い切った施策も行った。
 導入当初だけでなく、1年間行政処分が無いと2年間審査免除というプログラムも併用している(ただし抜き打ち検査は行われる)。
 たとえ査定されても、その理由や内容が細かく書いてあり、病院側が再発防止にフィードバックさせやすいということも好印象となった。
 かくして韓国のレセプト電子化はあっという間に浸透したわけである。
 
 もう1つの深刻な問題として、いわゆる「保険適応病名」問題がある。
 
 業界人であれば周知の事実であるが、日本では「保険病名」あるいは「適応病名」と呼ばれる、保険請求専用のウソ病名がある。
 ある診療行為が患者にとって明らかに必要だとしても、保険として認められないことがある。だからウソ病名を付けてしまえという発想である。
 例えば長く使うと肝臓に負担がかかり、投与中は定期的に肝機能検査を受けなければならないという薬がある。もちろん検査にも相応のコストがかかる。薬のために検査をし、その分持ち出しでは採算が取れない。
 「だったら肝臓の病気にして保険診療として認められるようにしてしまえ」ということなのである。
 もし「強い薬で胃を痛めるから」と併せて胃薬が処方された場合、貴方は胃潰瘍にされているかもしれない。ということだ。
 自分は保険者サイドの人間であるが、この世界に入って長いし、友人に腹を割って話せる医者も数多くいる。両方の内情は理解しているつもりだ。
 誤解を恐れずに言えば、医療機関の診療報酬請求は不正ギリギリのグレーゾーンの領域で行われている。そうしなければならないのは、つまり制度が悪いのである。

 医療機関は請求に不備が無いように、本当の病名によるレセプトを作成したあとで、適用病名を継ぎ足す作業を行う。そして保険者は適用病名もれをくまなくチェックし、バッサリ切りにかかる…。

 こんなナンセンスなことに病院と保険者はしのぎを削っているのである。しかも国保などであれば人件費はつまり税金だ。皆も無縁の問題ではない。
 どちらがが悪い、どちらに責任があるということではなく、こうした(少なくともレセプト電子化という面から見れば)悪しき慣習は無くしていかねばならないと思うのである。

 脱線が過ぎた。こうした話は別の機会を設けてゆっくり書こうと思う。

 本題に戻るが、こんな状態では、せっかく電子化が成されても、データの信用性が低く、使い物にならないのは言うまでもない。
 「胃潰瘍」で検索したら、その中に「なんちゃって胃潰瘍」が数多く混入しているのだから。
 ちなみに韓国ではこうした「保険病名」問題は無いそうであり、質の高い医療情報を確保することが可能なのだそうである。

 さて、こうした問題以外にも、解決せねばならないことは山積みだ。
 もし「レセプトオンライン」という夢のような話を実現するためには住基ネットと同等またはそれ以上のセキュリティを確保せねばならないし、導入費用や基盤整備の問題もある。

 5年間で完全実施できるかどうかはいささか疑問だ。
 ともあれ、現実的な問題として、毎月運ばなければならない多量の紙の山が早く無くなってくれるのを祈るのみである。

** 追記 **

 7月6日、カテゴリーを修正しました。




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 シスアドでセキュアドな後期高齢者医療制度SNS管理人。
 後期高齢者医療制度の資格事務担当だったはずがひょんなことで電算担当に。

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